空からの様子

北海道へ行く、と言うと、いいなあ、という声が返ってくる。まあ、それは普通なことだと思う。北海道は良い景色の場所も多いし、美味しい食べ物もいろいろある日本有数の観光地だ。でも、北海道に行くこと=楽しい旅行、では必ずしも無い。僕が前の仕事の頃には、クレームのお詫びに重たい気持ちで行くこともあったし、真冬の寒い工事現場に行かなければならないこともあった。今回も、いいなあ、という感想とは随分違う旅行だった。お通夜、お葬式、いろいろな手続きなどをしているうちに、今度は初七日、あっというまに帰る日になってしまった。

夏休みということもあってか、飛行機は行きも帰りも満席だった。それでも、帰りの飛行機では窓側の席が取れた。僕は飛行機の窓側の席が大好きで、窓側に座れたときには眠らない。ずっと景色を見ている。快晴のとかち帯広空港を飛び立ったB-737は大樹、広尾などの上空を飛び、日高山脈を越えて太平洋に出た。遠くには下北半島が見えた。
やがて沿岸に近づくと、入り組んだリアス式海岸が現れ、街と港が見えてきた。このあたりは3月11日の大津波で大きな被害を受けた場所のはずだ。目を凝らして様子を見たのだが、よくわからない。あまりにも離れているからだろう。帰ってきてから調べてみたら、海岸線や防波堤の形から、岩手県久慈市だとわかった。久慈市には十数年前に一度か二度行ったことがある。琥珀を産することで知られる土地だ。

遠目で見ると何事にもよるわからないものだ。遠くから見ただけ、ちょっと見ただけ、あるいは聞いたり読んだりしただけで解ったような気になってそれを評したりというのは良くないと思う。場合によってはそれで誰かを悪い気持ちにさせてしまうこともあるだろう。人も見た目や評判で判断しない方が無難だ。ちょっとお付き合いしてみたら実はとっても傲慢人だったなんて場合もあるし、付き合うほどに良い人であることに気づいて好きになる場合もある。前者の場合はがっかりする。でも、後者の場合は悪い気分ではない。むしろ、自分だけが知っているのかもしれないとか、自分だけが見つけた、といういい気分になるものだ。
津波から話がそれてしまったが、空から見ただけでは津波の被害の様子はわからないし、そこにいる人たちの様子もわからない。だから評さない。だって僕は、10000メートル以上も離れたところを時速900kmぐらいの高速で通り過ぎた、ただの通りすがり。

(8/29 訂正)青森県久慈市岩手県久慈市
久慈へは、八戸から鉄道で行った記憶から、いちいち調べずに青森県と書いてしまった。正しくは岩手県