昭和日常博物館

北名古屋市歴史民俗資料館に行った。ここは回想法ということで有名なところで、それをある研修で聞いた7〜8年前から気になっていて、いずれ行きたいと思っていた。回想法というのは昔の物を見てそこから思い出すことを語り合うことで脳を活性化させるという、一種の治療法。この資料館は認知症老人の治療にも使われているのだ。今は北名古屋市となっているが、もともとの設立時は師勝町という自治体。町という単位の資料館が全国に先駆けた活動を行い、実績を積み上げたということが凄い。
写真がその建物だが、図書館との複合施設となっており、1階2階が図書館で資料館は3階にある。エレベーターに乗って3階の扉が開くと、いきなり陸王(オートバイの往年の名車)が出迎えてくれる。でも、陸王だけがドンと置かれているのではなく、昭和30年代ぐらいの雰囲気のお店の雰囲気にディスプレイされている。店の中では自転車が組み上げの最中というところで、当時のメーカーの看板なども壁に自然に配置されている。「おー」と声を上げたくなる。誰かがいれば話し合いたくなる。この時点で僕の脳はかなり活性化していたはずで、これが回想法の入り口なわけだ。
館長のIさんにお話をうかがうことが出来た。とても真面目な落ち着いた人で、開館準備からこれまでのことについて様々なお話を聞くことが出来た。これほど特長ある資料館も、開館当時は農具や土器などが並んだ、全国によくある歴史民俗資料館だったそうだ。それが少しずつ少しずつ、昭和の生活を記録する様々な資料に入れ替わってきた。そのご苦労は大変なことだっただろうと思われる。
年配の女性たちの団体さんが訪れた。話に花が咲いている。電気屋さんを覗き込んで、炊飯器や冷蔵庫を指差し語っている。床屋さんの椅子や道具について話している。昔の体験談を語っている。笑っている。なんとも生き生きしている。ちょっと趣味が悪いけど近くに行って聞き耳を立ててしまった。おばちゃんたちの脳細胞はきっと活性化していたことだろう。
もちろん僕もそうだ。子どもの頃にたくさん飲んだ粉ジュース、牛乳ビンの蓋、雑誌、思い出していろんなシーンが目に浮かんだ。
前の晩、大学時代のS先輩と名古屋で落ち合って酒を飲んだ。僕が呼び出した格好になってしまったが、Sさんは快く来てくれた。酒が進むほどにSさんの話し方が昔のようになった。それは僕も酔っていたから一層昔の様子を思い出して投影していたのだろう。学生時代にたくさん話した話題を、今もう一度掘り返して話す。当時好きだったものが時代を経て別なものに置き換わっている。カメラはデジタルに替わり、自転車はフランス風からアメリカ風に替わった。その他にも、社会の話、SFの話、星の話。元々話の合った人だから、何年も会っていなくてもだいたい考えていることは同じ傾向だ。だから久しぶりに会っても会話が弾む。
僕は今回、先輩との再会と資料館という2つの「懐かしい」による2段構えの回想法で、たっぷりと脳細胞が活性化した。まるで別なことだと思っていたけれど、どうも効果は同じだ。もしかしたらSさんといっしょに資料館の展示を見ていたら更に活性化していたに違いない。