カワウのコロニー

笛吹川が荒川と合流する付近にある砂浜の周りにカワウたちがいた。何羽いるだろう。100羽ではきかない、もっと多いと思う。僕は100メートル以上も離れた場所にいたと思うのだが、驚いたように一斉に飛び立った。なかなか迫力がある。「♪ ロート、ロートロート」と繰り返すロート製薬あのCMで鳩が飛び立つシーンのような雰囲気だ。とても強い風が吹いている日だったが、カワウたちは風に飛ばされることも無く川の上をぐるりと一周するとねぐらへ向かって飛んでいった。

もう20年何年も前のことだが、今は無い「Flash」という雑誌にカワウの写真が載っていた。それは浜離宮にねぐらを構えたカワウたちの姿だった。それは恐ろしいような景色の写真だった。浜離宮を囲んだ木の上に巣を作ったカワウたちの姿と、そのカワウたちの白い糞によって真っ白に染められてしまった木々の姿だった。それを見た僕はカワウに少々の嫌悪感を持ち、早く駆除しなきゃダメじゃないか、と思った。
でもそれから年月が過ぎると、ときどきカワウについて知る機会を得て、少しずつカワウについての印象が変わって行った。きっとそれ以前もカワウの話題について触れる機会はあったのだろうが、あの強烈な写真のおかげでカワウという言葉が僕の脳の中でわりと目立つ位置に記憶されたようで、それからカワウという文字に敏感になってしまったのだろう。
カワウは1960年代から1970年代にかけて、かなり数を減らしてしまったらしい。激減の状態だったようだ。僕が住んでいたところのそばを流れていた花見川は、この付近の笛吹川濁川の雰囲気と良く似ていたが、カワウを見たことは無かった。カワウが減った原因は公害。人間による川の水質汚染がカワウたちにとって大きなダメージになっていたのだということだ。たしかに僕の子どもの頃の川は汚れていた。臭かったし、洗剤の泡が浮いていた。カワウの餌になる魚も減ったことだろう。毒に汚染された魚。カワウがそれを食べ続ければ、体に毒が蓄積しやがて命を蝕む。こうしてカワウはどんどん減り、日本中のあちこちからカワウのコロニーが消えていった。
1980年代になると公害規制の効果が効いて川の水質が綺麗になり、カワウの数も回復してきたという。つまり、僕が20年何年前に見たカワウたちによる浜離宮の惨状は、カワウの種の保存という意味では喜ぶべきことだったし、川の水質が向上したという証拠写真でもあったわけだ。