ひこばえ

刈り入れが済んでからひと月以上になるだろうか、田んぼはひこばえでほんのり緑色になっている。株が並んだ様子を見ると、このあたりは縦方向と横方向がよくわかる。

ひこばえをよく観察すると、たまに稲穂を出しているものがあることに気がつく。一度収穫を終えた田んぼに再び稲穂が出るとすればお得な感じもするが、稲穂をつまんでみると籾殻はぺたっと潰れてしまい、実が入っていないことがわかる。やはり、春から夏までじっくりと栄養を溜め込んだ成果として実るものとは違う。大急ぎで作ったハリボテみたいなものだ。
でも、こういう付け焼刃と言うかハリボテみたいなものにうっかり騙されることはよくあることだ。昨今、日本の家電メーカーは不調が続いていて中には経営危機が噂されている会社もあるが、僕が子どもの頃から若い頃にかけての時代は、日本の家電メーカーは飛ぶ鳥を落とす勢いがあり、今日の落日をとても予想できなかった。当時の家電メーカーはどの会社も「総合家電メーカー」を謳っており、洗濯機もテレビもオーディオもフルラインナップだった。どこかの会社が得意分野で技術満載の製品を発売すると、他社も同様の機能を搭載した製品を売り出した。でも、実際には各社に得意/不得意はあって、真似したけれど役立たずなものも少なくなかった。今頃の中国製品を決して馬鹿に出来ないほどひどいものもあった。でも買ったときにはそんなことには気付かずに、不便な思いをしたりもせずにいるものだ。それが、友達の家などで本家本元の機種に触れる機会があったりしたときに、感動とともに、自分の家の物のその機能が付け焼刃で開発されたものだったことに気付くのだった。