サクラの落ち葉

サクラは紅葉する前に八割方の葉を散らしてしまうように見える。花は愛でられるが、紅葉を称えられることはほとんど無い。それでも、葉を散らしてしまいながらも、なんとか紅葉まで到達した葉の色は味わい深いものがある。黒いポツポツはどういうものだろうか。虫食いなのか、それとも人間の肌でいうホクロのようなものか。人が歳を重ねる毎に肌に沁みやほくろが増えるように、サクラの葉にも一枚一枚に別な形の沁みができる。
そう考えると、紅葉が天寿の全うだとすれば、その前に散った葉は若死にだろうか。本懐を遂げられずに、病に倒れたり虫に食われたり、年によっては台風の直撃を受けて頓死に見舞われることもあろう。一方、晩秋まで枝に残った葉は、蓄えた緑の養分を枝に吸わせて朱色を現して散る。日本では、桜の花の散り際を潔さの鏡として尊ぶが、一様ではない桜の葉の散り様は、まるで人々の命の散り方と似ているような。