大雪の日3 雪山登山通勤

9日の朝、目覚めて窓の外を見てみると、やっぱり雪景色だった。「昨日、あれだけ降ったのだからあたりまえだ」と思いつつも、もしかしたら昨日の記憶はすっかり幻だったということを僅かの中の僅かに期待もしていた。しかし、美しい雪景色はそのささやかな期待をばっさりと裏切った。晴れた日には富士山が見える南側の窓からは、屋根にどっさりと雪を載せた家々が見え、電線が重そうに雪をバランスよく載せている様子が見えた。富士山は見えなかった。北側の窓からは家々の屋根の向こうに、真っ白に染まった山々を見ることが出来た。特に湯村山は朝日を浴びて白く明るく輝いていた(写真1:以下写真の番号は上からの順)。これまで、こんな美しい湯村山を見たことが無かった。
いつもは車で行く通勤であったが、この日は前日から歩いていくことに決めていた。山の上にある僕の職場までは、愛宕山スカイラインというクネクネの道が付けられている。これは頂上で行き止まりの道ではなく、南側から登って北側に降りるようなコース(反対方向も○)になっている。仮に麓まで行けたとしても、愛宕山スカイラインの除雪が行われていなければ、とても車で登っていくことは出来ない。これまでの雪の日の経験を思い出すと、愛宕山スカイラインの除雪は案外早い時間に行われている。しかし、今回の雪は尋常な積雪ではない。そんな風にいろいろ考えた結果、歩くことにしたのだった。
いつもより1時間以上も前に家を出た。かばんも手提げではなくリュックサック、靴もスノーシューズにしてオーバーズボンもはいて完璧だ。家のそばは除雪が全くされていなかった。広い通りに出てもそうだった。朝早い上に日曜日とあって、通り過ぎる車はごく少ない。たまに通り過ぎる車も慎重なスピードとブレーキ。中には40センチもの積雪を屋根に載せたままの車もあった。脇道の方向を見ると、まるで東北地方の景色を見ているような錯覚に陥るほどだった。(写真2)
国道に出ても雪が多い。もしかしたら除雪をしていないのではないかと思うほどだった。僕はそれまで車道を歩いていたのだが、国道に出てからは歩道を歩いた。歩道はほとんど除雪がされておらず、だれかの踏み跡をたどって歩くような状況だった。そして愛宕山トンネルの手前あたりで国道を逸れて小道に入った。墓地の横を通る道だが、古い轍があるだけで、踏み跡は無い道だった。(写真3)
墓地を過ぎるとそこから急な登り。途中、小枝が道をふさいでいるような場所もあった。雪の重みで折れて落ちてしまったのだろうか。(写真4)
更に登り、踏み跡の無い車道を進む。このあたりでずいぶん息が切れてきて、暑くなってきた。開けたところに出ると、白く染まった甲府の町並みが見えた。(写真5)
車道から離れ、山道に入る。急な登りがきつい。ラッセルと言うには大げさだが、膝ほどまでの積雪の中を足で雪を払いながら登った(写真6:上から自分の膝を撮った)。急坂になってからは、すっかり息が切れてしまい何度も立ち止まった。立ち止まって見渡すと、シーンと静まった雪景色の森の中に冷たい空気がゆっくりと流れているのがわかった。空気が冷たい一方で、僕の体からはどんどん汗が流れているのもわかった。前半の街中を歩いているときには快適を与えてくれた厚着も、この山道では僕を涼しさから遠ざける。再び歩き出しても、ときどき大きめの石を踏んでしまい、そのせいでガクッと片膝が落ちるようなこともあった。
ようやく頂上が見えてきた(写真7)。始業時間よりも20分も早い到着だ。もしかしたら愛宕山スカイラインが通行できず、皆立ち往生しているかもしれない。それなら僕が間違いなく一番乗りだろう。なんとなくそんな武勇伝を想像しつつ、森の中の道を抜け、職場の駐車場に出た。すると、もうすでに数台の職員の車が止まっていて、重装備の僕に比べて、あまりにも軽装の女性職員たちが駐車場の積雪の凄さを甲高い声で話しているところだった。こうして僕の幻の武勇伝は終わった。しかもその後の雪掻き作業が、すでに雪山登山で疲れ切った体に鞭打つ形になって、まさにぼろぼろな一日であった。(こんな日なのに残業までした)