富山市天文台

1956年設立という60年近い歴史を持つ富山市天文台は、1997年に街明かりを避けて移転し口径1mの大型望遠鏡を備えた天文台に生まれ変わった。僕は今回の富山出張で、その大望遠鏡の強力な機能を目の当たりにすることができた。
わざわざ「大望遠鏡」と書いたが、日本はハワイのマウナケア山頂に口径8.2mのすばる望遠鏡保有している。しかし、納税者たる日本人であっても、残念ながら一般人がすばる望遠鏡を覗いて星を見ることはできない。なぜならこれは一般人のためでなく、世界の天文研究者のための望遠鏡だからだ。そういう意味では、地方自治体が建設した天文台は概ね一般向けの観望タイムを設けているので覗いてみるチャンスがある。僕の職場にある望遠鏡もそのひとつだ。ただし、職場の望遠鏡の口径は20cm、富山市天文台の1mとははるかに大きさが違う。そういう意味で、富山の望遠鏡は大望遠鏡なのだ。大望遠鏡でありながらもカセグレン焦点を使用せずナスミス焦点に限定し経緯台としたその姿は、口径1mの望遠鏡としては非常にコンパクトなものだ。
その日はそれこそ雲ひとつ無い快晴、夕方になるとぐんぐん寒さが沁みて来るような天気だった。富山は11月にはいると曇り勝ちの日が多くなり、やがて雪が降り出すということで、こんな快晴は今年最後かもしれない、なんて言われたほどだった。日が暮れた頃、国際宇宙ステーション(ISS)が地平線上に現れ、この望遠鏡がそれを追いかけた。僕は接眼レンズに吸い付けられたようにその中に見える像に見入ってしまった。地平線に現れた頃のISSは両側に太陽電池パネルを広げたH型に見えた。大気の影響を受けてゆがんで見えていたその姿は地平高度が上がっていくにしたがってくっきりとした形になり、銀色の中心部の居住空間などが複雑な形になってきて、橙色に太陽の光を反射している太陽電池パネルの中心に見えてきた。そしてぐーっと角度が変わって行き、左右に開いて見えていた太陽電池パネルが中心に重なり、中央部の居住空間などが立体的な姿に変化した。そして再び次第にゆがんで行きながら地平線に消えていった。
これは、生まれて初めて体験した興奮する観察だった。普通の赤道儀では人工衛星を追尾することはとてもできない。ドブソニアンなどでも無理。この1m望遠鏡は、とてつもなく高速で動く回転軸を備えており、そんな難しいことも簡単にやってのける能力を持っている。国内には口径1mを超える望遠鏡が何台かあるが、この機能を持っている望遠鏡は少ないだろう。僕は一般人としてかなり高級な体験をすることができたのだ。