貸しボート

夕方の千代田湖、乗り手のいないボートが船着き場にずらっと並んでいた。まるで、揃って眠りについたかのように見えた。
そういえば、通りすがりに聞こえた釣り人同士がの話を思い出した。一人が糸をひっかけて失ってしまったのか、湖の底に沈む障害物の話題だった。訳知りのような一人が、「ボートが沈んでいるんですよ、あそこに一艇、あの辺にも一艇」と指をさしてくるっと水面の一部を囲みながら説明していた。私は歩いていたので一部しか聞き取れなかったのだが、あとになって、もっと聞きたかったと思った。例えば彼らの近くで何かの写真を撮り始めるなどのやり口で、しばらくは声が聞こえる範囲に居続けることもできたろうにと。