山の手通り

今夜遅くから雪が降るというからちょっと心配している。
今から30年ぐらい前、長野県の原村で仕事をして帰る時のこと。すでに年度が開けて4月になっていたというのに、雪が降った。仕事を終えてチェーンを付け、諏訪南インターから中央道に乗った。やがてチェーン規制区間が終わったので双葉のサービスエリアに寄ってチェーンを外した。日はすっかり暮れていた。甲府盆地は雨だったが、東の端の坂を登り始めるとと再び雪に変わった。
やがて、笹子トンネルに入ると電光掲示板に「出口雪注意」という表示が出ていた。僕は左の車線をノロノロ走っていた。出口を出ると想像以上の雪で、路面に少し積もっていた。そのとき、右側の車線をスピードを出して追い抜いていく車があったのだが、雪に気づいて驚いたのか、ブレーキをかけた。それを知らせるリヤの赤いランプが点いたとたん、その車は派手にスリップし、蛇行した。そして制御を失い僕の目の前に横向きで入り込み、左のガードレールに衝突し跳ね返された。僕の車はその直後にそこを通過し、間一髪のところで衝突を免れた。一瞬の事だったが、若い男が二人乗っていたのが見えた。当時は僕も若い男の一人だった。
僕はしばらく心臓がドキドキしていた。そして左の車線を離れずに車の流れに合わせてゆっくりと慎重に走っていた。やがて、右から前後を派手に破損した車が追い抜いて行った。さっきの車だった。