夕焼けを見て野付水道横断を思う

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国後島から泳いで北海道へ渡ってきた亡命希望のロシア人が警察に保護されたというニュースがあった。なんでも、元々ウラル地方に住んでいたが、移住の募集があってそれで国後島南端の泊村に住居を与えられて荷役みたいな仕事をしていたらしい。この人をどうするかは政治的にはとっても難しいところだろうが、そこはご担当の政治家やお役人にうまい具合に解決して頂くとして、僕はしばらく地理院地図で国後島に見入っていた。
報道によれば、この人の家には日本のポスターなどがあったりして、日本にはちょっとした憧れを持っていた節があるらしい。泊村のどのあたりに住んでいたのかは不明だが、良く晴れた日には知床半島の山々や、標津や根室の陸地が見えたことだろう。荷役とすれば屈強な体躯を持った人かもしれない。そんな体と体力をもってすれば、季節によってはあそこまで泳いで行ける、そんな風に思ったのかもしれない。地図で一番近そうなところを見てみると、国後島ノツエト崎やケラムイ崎から北海道の野付岬までは、直線距離で17㎞ぐらい。遠泳で有名なイギリスとフランスを隔てるドーバー海峡の距離は34㎞、半分ぐらいだ。どんな準備の日々を送ったのかは想像できないが、決行日、この人は野付水道に泳ぎ出た。もしかしたら協力者がいて途中まで船に乗ったかもしれない。しかし、その後は陸地に辿り着けずに海の藻屑と消えてしまうことになる危険もあった。ドーバー横断の最初の横断記録は21時間45分、この人は何を思いながら何時間かけてこの水道を渡り切ったのか。もしかしたらこの人以前にも横断を試みて海に消えてしまった人が何人もいたのだろうか。