夕焼け飛行機雲

昨夜から雨が降り続いたが、もう雨上がりの羽蟻はやってこない。涼しくて過ごしやすい。秋の虫の声が聞こえる。
しばらく前のことになるが、団地の庭でコオロギを捕まえて帰ってきたことがあった。長女が小学校の低学年の頃だから、7〜8年前になるだろうか。長女は「ヒョロロロロロ(と僕には聞こえる)」というエンマコオロギの鳴き声が何処から聞こえているのか解らないでいた。虫の声だよ、と言っても信じない。それなら!ということでしばらく格闘してようやくオスのエンマコオロギを1匹だけ捕まえた。
家に帰って、小さな水槽に入れた。水槽は夏にカブトムシを飼っていたものだ。最初は食卓の上に置いて観察していたのだが、少しも鳴いてくれない。やがて夜も更けて寝る時間になり、灯りを消して布団に入った。
するとコオロギは、待っていましたとばかりに「ヒョロロロロロ(と僕には聞こえる)」という鳴き声を上げだした。娘はこれでヒョロロロロロの正体が水槽の中に入れた虫であることを確認できた。僕も娘も大喜びだ。でもこれがウルサイ。外で聞く分には心地良い程度のものなのに、団地の小さな部屋の中ではたった一匹でもとても大きなボリウムなのだ。妻の意見によって、たちまちコオロギの水槽は玄関へと追いやられてしまった。
「コオロギを聞きながら寝るのもいいねえ」と僕は言ってみたが、妻はまるでダメらしい。そして次の夜、コオロギを外に逃がしてやることになった。たった一晩だけの同居であった。