あかつき(きのうの続き)

僕はプラネタリウムで「飛べ!日の丸探査機」という作品を作ったことがあるが、そのときに宇宙研の研究者たちに取材をする機会に恵まれた。そのときに聞いたのだが、内部的には、はやぶさは工学ミッション、あかつきは理学ミッションという違いがあったそうだ。両者の違いは簡単に言うと次のようなものだ。工学ミッションは新技術が満載、でもその代わりに失敗のリスクも大きい。各ステップ一つ一つが成功となり、得られた理学的成果はご褒美のようなもの。一方の理学ミッションは、理学的な研究のために観測をしてデータを取ることが目的。そのため、これまでに実績のある安定した(枯れた)技術を使う。データを取れて初めて成功と言えるもの。
はやぶさは、打ち上げから次々と成功を積み重ね、小惑星イトカワに到達した。その後トラブルには見舞われたものの、なんとかカプセルの帰還という最後の工学的使命を果たし、しかもイトカワの小さなかけらがご褒美としてカプセルに入っていた。しかし、あかつきは理学ミッションとして当たり前に実行されなければならないはずの、金星周回軌道投入に失敗してしまった。
でも、実際のところでは、あかつきはいくつもの新技術を搭載していた。そしてもう一つ、はやぶさと同じボディだったということがあかつきの不幸にもつながったかもしれないのだ。はやぶさの打ち上げ成功をもってして、同じボディを使うあかつきは、試験用のエンジニアリングモデルが製作されることが無かった。この工程が省略されて、いきなりフライトモデルが製作され打ち上げられた。理由はわからないが、なんとなく想像はつく。相模原の宇宙研に行くと、玄関ロビーにははやぶさの実物大模型が展示されているが、実はこれは模型ではなくて飛ばなかった方の本物なのだ。そしてあかつきにはこれ(飛ぶ自分の代わりに各種試験を受けてくれたもう一台)が無い。つまり理学ミッションとしては最初から高いリスクを背負っていたといえる。
僕は、飛べ!日の丸探査機、を作る数年前に「ヴィーナスの素顔」という金星とPLANET-C(あかつき)を扱った作品を作ったこともある。何年にも渡ってあかつきを影ながら応援してきた。あかつきの失敗が、不幸にも背負わされてしまったリスクによるものなのか、あるいはそれ以外に原因があるのか、僕にはわからない。でも、ずっと応援してきた身としてはなんとしても5年半後といわれる次の軌道投入チャンスには成功して欲しい。
はやぶさにあってあかつきに無い実物大模型、関係者によれば昨年作ったこの模型が唯一のものだと言う。