クズの花

フジの花ほど派手では無いが、クズも紫色の綺麗な花を咲かせる。同じマメ科だから花一つ一つの形は良く似ているが、咲く季節は違う。花は、派手だから綺麗と言うわけでもない。夏の間はそこら中を多い尽くすほど旺盛な勢力を見せるクズが、涼しくなったらまるでこっそりとこんな花をつけている。まるで激しい自分には似つかわしくないおとなしい花を隠しているかのようでもある。でも、「へぇ、あんなやつにもこんな一面があったのか」と、花を誇るフジを見るのとは違う見方で、ちょっとした綺麗さを感じる。
子供の頃、風邪を引くと「葛湯」を飲まされた。というより飲むことが出来た。割と好きだった。ただし、本物の葛根湯ではない。片栗粉を溶いたものだ。しかも、お店で売っている片栗粉と書かれた袋の粉も、カタクリから取った物ではなくジャガイモから取った澱粉だ。つまり、嘘に嘘を重ねたものだ。
葛湯の正体が葛粉では無くジャガイモの澱粉だと知ったのはずいぶん後のことだ。と言ってもそれで腹が立ったわけでもない。僕は葛粉を使った葛根湯を飲んだことが無いし、本物の片栗粉も知らない。僕にとっての葛湯は最初に飲んだときから、嘘に嘘を重ねた澱粉で作られたもので、それが美味しいと思っていた。案外、ブラインドテストをしたら本物を当てられないのではないかと思う。でも、僕にとっては、葛湯の材料が葛粉であろうがジャガイモであろうがどうでもよいのだ。
世の中のいろいろなことの本質というものは、きっとそういうことだろうと思う。