雲の間に見えた釈迦ヶ岳

釈迦ヶ岳の頂上は、時に雲よりも高い場所である。そこに立ってぐるっと見渡すと地上の町が小さく見えて、束の間、小さなことはどうでもよくなってしまう。一方地上では、今、恐らく最も世間を騒がせているのは、東京都の豊洲新市場の地下問題だ。
今回の地下空間は「地下室」ではないようだが、地下室には子供のころからなんだかあこがれがあった。所謂アジト的は感じがそそるというか、地下室という言葉に漂う秘密っぽさに惹かれたのだと思う。
やがて地下のワイン貯蔵庫という物を知った。刑事コロンボにもそれが出てきて、殺人現場になったり事件を解くカギになったりで、ぞくぞくしたのを覚えている。
高校生の頃にはドストエフスキーの「地下室の手記」を読んだ。僕にとっての地下室のイメージはワイン貯蔵庫というお金持ちの象徴的な持ち物から、再び、人が籠る陰気な場所に変わった。
バブル経済時代になると、3管式のビデオプロジェクターを天井から吊り下げて、大きなスクリーンや音響装置を前にふかふかのソファーに座ってDVDを見る地下室のミニシアターが話題になった。僕の地下室の印象は再び金持ちの物に戻った。
15年ぐらい前からは、デジタルのビデオ機器が一般的になり、続いてそれらが携帯電話にも搭載された。その頃から一般の人が自前の機器で撮影した映像がテレビ局に提供されニュースで放映されるようになった。その中で見たゲリラ豪雨の映像で、地下室にどくどくと流れ込む雨水の様子を見た。それ以後、地下室は水が溜まりそうで、羨ましさがなくなった。
この度の豊洲新市場の地下に貯まった水がどんなものだが僕にはまるで分らない。何とかなるだろうというぐらいの気持ちで見ている。僕の地下室への印象は良いと悪いが繰り返してきた。今回は「室」ではないから印象に影響を受けないかもしれないが、こう毎日テレビや新聞で出てくるとまるで無視できるものでは無い状況だ。