きれいな夕焼けが見えた。
この夕焼けを見せた太陽は、5日後に月に前を横切られて日食となる。
1991年、ハワイからメキシコにかけて皆既帯が連なった皆既日食があった。僕は、有給休暇を取り、大枚をはたいてこれを見にハワイ島まで出かけた。なぜ大枚かと言うと、通常は10万円も出せばたっぷり遊んでこられるハワイ旅行が、皆既日食の時には30万円にも跳ね上がったからだ。その体験談はあらためて別の機会に書くこととして、僕はこういうきれいな夕日を見るとハワイの皆既日食を思い出す。
ハワイ日食の直前、フィリピンのピナツボ火山が大噴火した。噴火によって吹き上げられた噴煙の微粒子は、はるか成層圏まで達し、何ヶ月先までも地球全体の気象に影響を与えたという。僕もその一端を目撃した。それがハワイで見た美しい夕焼けだった。夕焼けといえば橙色が相場だが、ハワイで見たのはピンク色や紫色のエリアも見える、非常に複雑な美しいものだった。日本に帰ってからも、その美しい夕焼けをしばらくの期間見ることができた。
大枚の自費をはたいた僕とは違って、会社のお金でハワイに日食を見に行った部隊もあった。彼らは羨ましいことに、入山が厳しく制限されるマウナケア山の頂上にまで行くことができた。その成果はやがて「黒い太陽」という映画になった。その映画の中、太陽が雲海に沈んでいくラストシーンは美しい夕焼けだった。同じハワイの夕焼けなのに、僕が見たハワイの夕焼けとは色合いが違っていた。それが、目とフィルムの違いによるものなのか、はたまた見る場所の高さの違いなのか解らないが、その夕焼けもまた美しかった。次第に濃い色に変化していく夕焼けに合わせ、ソプラノサックスの演奏が盛り上がっていくのが良かった。70mm大型映像がすっかり廃れてしまった今、もうあの映像を見ることができないだろうと思うと、寂しい気分になってくる。
そんなわけで、ハワイ日食の思い出は、日食以上に夕焼けの印象が強い。いつの間にかハワイ日食も、もう20年以上も前のことになってしまった。