母校の景色 7

生き残った道具
こんな道具を持っているなんて、稲毛高校すごいぞ!この道具はハンドオーガーというやつだ。これは地質調査に使う道具だ、と言っても、この写真を見ただけではどうやって使うのかは解らないだろう。
地学部の顧問だったK先生は、地学部入部が天体観測が目的だった僕らに対しても、プライベートの時間を割いてずいぶんつきあってくれた。でも、ただ付き合っただけじゃなくて、案外天体写真が面白くなったみたいで、一人だけでも出かけていたようだった。「こんな写真撮ったよ」なんて、買ったばかりの超広角レンズで撮った写真をみせてくれたこともあった。その一方で、僕らを日曜日に地質巡検に連れて行ってくれた。
K先生は、下総台地の地質を研究しているグループの一員で、他の研究者と一緒に巡検する中に僕らも連れて行ってくれたのだった。僕らにとっては他の高校や大学などの先生と話す機会でもあったりして、すごく大きな影響を与えられた。K先生が星の写真を撮るのが面白くなったよりも何倍も、僕らは地質調査の面白さにのめり込んでいった。土曜の夜に星を見て、日曜の朝には地質調査で集合というような日もあった。
教科書を通じて勉強する学校では、「これはこう」という、答えのあるものしか習わないが、グループの先生方の話を聞いていると、時には考え方違う人たちの存在を知ったり、結論が定まっていないことについて知ったりということがあっておもしろかった。解ったことだけを知らされる教室とは違って、わかっていないことを調べている人たちについて回っていることの面白さにワクワクした。解っていることを習うということは、それを理解して終わり、ということだが、解っていないことについて知るということは、その議論に自分も参加できるような気にもさせられ、自分は最先端にいるのかもという気分になれる。
そんなときに使っていた道具の一つが、「検土杖(けんどじょう)」というものだった。地面に刺して1〜2mぐらいの深さの土をサンプリングする道具だ。これはショボいようだが案外効果的で、河岸段丘の成立年代などを確認する手段にもなる。そして、「ハンドオーガー」はその豪華版だ。ハンドルを取り付けてドリルのようにぐるぐる回しながら掘り進み、いよいよというところで新たなシャフトを継ぎ足して再びハンドルを取り付けて回す。それを何度か繰り返すと、例えば6mの深さなどの、検土杖よりもより深くの地質をサンプリングすることが可能だ。この道具を使えば露頭の無いところの地質もある程度知ることができる。
僕らはすっかり地質調査の虜になり、いつのまにかK先生の助手のようになっていた。地質巡検に行き、柱状図を書き、それを立体的に繋ぎ合わせ、地質を知りその歴史を知る。星を見るために空を見上げていた僕の視線は、反対に地面の下を見つめる視線に変わった。
僕は結局、大学で地形学を専攻した。