保田の海岸

東京湾フェリーで浜金谷の港に着き、そこから一駅分南へ行くと保田。このあたりは鋸南町というが、鋸山の南側に広がる砂浜が続いている。砂浜は更に南へ弧を描いて続き、保田の漁港で終わる。そこからは岩場と砂浜が交互に連なっている。海の向こう側には三浦半島が見える。浦賀水道を行き交う大小の船が通り過ぎる。
僕は何故だかこのあたりが子どもの頃から好きで、時々来ることがあった。小学生のくせに友達と連れ立って電車に乗ってはるばる海水浴に来たことがあった。京成電車に乗って津田沼で乗り換え国鉄千葉駅前駅で降り、国鉄(現JR)内房線に乗り換える。お小遣いをほとんど持っていない小学生だから「特急さざなみ」には乗らず、普通電車でのんびり揺られていく。行き先は保田が多かった。最初の頃は海の家も使ったけれど、あまり使わないのにお金を払うのが惜しくてそのうち使わなくなった。
中学校に行ってからもよく泳ぎに来た。2年生の夏には水中眼鏡と足ヒレとスノーケルを買い揃え、潜りにきた。その頃は一つ南の安房勝山駅付近のほうが岩場が多くて楽しかった。誰にも教えてもらったことも無かったので、友達みんな自己流だった。
多くの人は午後2時から3時に帰るけど、5時ぐらいまで粘れば海岸が空いてくるし帰りの電車でも座れる可能性が高いと学習した。お盆を過ぎるとクラゲが出るとか波が高くなるとか言われるけど、夏休みが始まったばかりの7月20日頃に比べて水温が暖かくなって泳ぎやすいということも経験的に知ることができた。帰り道は千葉駅の立ち食い蕎麦をすするのが旨い。日焼け止めなんて塗らない時代だから風呂がたまらなく沁みる。そして爆睡。何日後かにまた海に誘われる。
8月下旬の夕方、海の家の営業も終わっていて人もまばらな海岸。僕は少し涼しくなった空気の中で砂浜に座って足を伸ばし後ろに両手をつく。見上げると、すっかり日が短くなって早まった夕暮れの日差しが雲金色に染めている。そんなシーンをくっきりと覚えている。
(上の写真は鋸山側、下の写真は勝山側)