神田駅の広告看板

研修二日目。今日は、昨日の昼食後に街を歩いて目星をつけておいた店のうちの一つで昼食を食べた。午前中の講義が12時10分前に終わったので、これは昼休みが長くなったと思ったのだが、司会の人からは早く終わったので早く始めるとのアナウンスがあり昼休みが10分前倒しになっただけだった。しかし、この10分は実に重要だ。近隣のビルから12時になる一斉に出てくる人波から数分先んじて店に入ることができる。それならばということで、昨日は混雑していた天丼屋に行くことにした。大正時代から続いている老舗だそうで、店の構えも周囲のコンクリート造とは違う古いくすんだ木造建築で、かかる暖簾も色あせて一部がほつれているところが期待感を盛り上げる。しかも老舗と言っても大衆向けを守り続けているようで、値段は750円だ。天婦羅屋は老舗でなくても昼の丼で2000円ぐらい取る店が少なくない中で希少価値すら感じる。安いと言っても普段の僕の昼食はカップ麺やローソンのパンやおにぎりが主で、ちゃんと食べるにしてものり弁を買ってくるか牛丼を食べに行くぐらいのものだから、750円は贅沢な朝食だ。昨日の中トロ丼の1100円などは破格の贅沢と言ってもいい。それでも、いつもは安く済ませているんだから出張の時ぐらはいいやと自分の罪の意識を自分で弁護してみる。この日のために節約していたわけでも無いくせに現金な言い訳である。それにしても、ワンコインでも贅沢が過ぎる気持ちになる自分に比べ、東京のサラリーマンはいつもその倍ぐらいの昼食代をかけているのだ、きっと給料が良いに違いないと勝手な想像をして、隣でひたすらスマホのゲームに興じる30代のサラリーマンに羨ましさを思ったりもした。そしてようやく天丼が運ばれてきた。昼休みはすでに半分が過ぎていた。研修が終わった夕方、神田駅のホームにいると、隣のドアの待ち列に昼の天丼屋で相席だったゲーム好きがいるのが分かった。相手はあのときスマホの画面しか見ていなかったから僕の姿を見ても相席だった相手だとは気づかなかっただろう。