宵の明星

飛行機雲が地平線の一点へ収斂する黄昏時。これは一昨年(2010年)の5月の写真。
月、その右下に金星。今も金星は夕暮れ時に西の空に明るく輝く宵の明星として見えている。
ここ数年、金星と聞くと「スーパーローテーション」という言葉を反射的に思い出すようになった。もう十年近く前に書いた、金星をテーマにしたプラネタリウム番組「ヴィーナスの素顔」のときに初めて知り、一昨年の金星探査機「あかつき」の打ち上げのときに一層鮮明になった。
スーパーローテーションとは、金星の大気上層部を吹く風が、わずか4日間程度の短い間に金星を1周するほどの速さで回転している現象のことを言う。この速さは金星自体の自転速度の40倍にもなる早さだ。「あかつき」には、このスーパーローテーションの謎を解くことも重要なミッションとして課せられていた。
地球とは全く違った大気の構造を探り、雷の有無なども観測し、金星の気象そのもののメカニズムを解き明かす。それはきっと地球の気象をより深く理解するために重要なもの。「あかつき」が順調に飛行さえしていれば、これらの貴重なデータが地球にもたらされていたはずだ。
「あかつき」はこの写真を撮った4日後の5月21日にH2Aロケットで打ち上げられた。しかし半年後の12月7日、残念ながら金星周回軌道投入に失敗。最近聞いた話では、メインエンジンの復活を諦めて、軽量化のためにメインエンジン用の燃料を捨てたらしい。こうして身軽な身体になって、姿勢制御用のジェットを使って再度の金星周回軌道投入を狙うようだ。でもきっと当初想定していた軌道とはずいぶん違ったものになってしまうのだろう。長年の飛行でカメラ類も痛んでいるかもしれない。
景気の悪い話が横行し、金を使う話をすれば悪者のように言われかねない風潮の近ごろでは、もう一度「あかつき」を打ち上げよう、なんていうのは無理な話か。