月と金星

日が沈んでしばらくの時間が過ぎ、西の夕焼けが薄くなった。やがて周囲が薄暗い黄昏時になると、鉄塔の上に金星、左に月が見えていた。
細い月は月齢3.1、新月から3日が過ぎた。次の新月は5月21日で、このとき月は地球と太陽の間に入り込んで金環日食を起こす。そして翌日は東京スカイツリーのオープンで、僕の誕生日でもある。
金環日食で世間は盛り上がっているが、天文現象の場合、多大な期待は大きなガッカリに繋がることがこれまでも多かった。天文にそこそこ詳しくなってからは世間の大騒ぎにも冷静になれたが、小中学生ぐらいの頃は知識も未熟でだまされやすかった。僕が星に興味を持ち始めた小学生の頃にもそんなことがあった。1972年、流星雨になると言われたジャコビニ流星群の場合は、僕の住んでいた千葉では天気が悪くて見られなかった。翌日の報道では富士山に登って雲の上で観測した人たちも流星雨を見ることはなかったという。1974年には、アポロ宇宙船の宇宙飛行士が見たというコホーテク彗星が期待された。当時すっかり星博士になっていた僕は、冬だというのに日没時になると西の空を見上げ世紀の大彗星を探していた。でも見えない。望遠鏡を向けてみても判らない。結局、コホーテク彗星は大して明るくならずに去ってしまった。
日食の場合、大昔の陰陽師よりはずっと精度の高い予報が可能なので、流星雨や大彗星のようなハズレはまずありえない。でも曇ってしまっては見ることができない。日本気象協会のウェブサイトに過去晴天率があった。東京の場合、5月20日は36.7%、5月21日は63.3%、5月22日は40%だ。まあ五分五分というところだろうか。ちなみに晴天率とは「過去30年の観測データからの当日晴れる(雲の割合が8.5割未満)割合」だそうだ。ということは、快晴ではなく84%が雲で覆われていても「晴れ」となってしまう。84%が雲となると、朝まだ低いところにいる太陽が、雲の向こう側という確率はとても高くなってしまう。
天文業界は金環日食を大いに盛り上げているのに、そこへ水を差すようになってしまうのだが、天気を考えると期待はほどほどにしていた方が良さそうだ。確かに僕の誕生日にはよく晴れた印象が無い。