クヌギ、コナラなどの木々が寒い空に枝を伸ばす雑木林。夏には暗く葉が覆う木々の下が冬には明るくなる。見上げても冬しか空は見えない。
高校生ぐらいから二十代半ばぐらいまで、日本の名作を読むぞと取り組んでいた頃、文学史上に有名な国木田独歩の武蔵野を読んだことがある。有名な作品だから長いのかと思っていたら文庫本で厚さが5mm程度のものだった。開いてみたらその本は短編集で、武蔵野はその中の一遍でしかなかった。日光の眠り猫を初めて見たときの「こんな小さいんだ」みたいな「こんな短いんだ」と思った。
内容にはあまり強烈な印象が無い。淡々と雑木林の風景を描写していた内容だった。風や雨の表現が豊かで絵が浮かんでくるような、そんな感じだった。つまり、内容の印象は無いが景色を覚えている。近年の日本の小説は練りに練られた筋、絡み合った複線、登場人物の特異な過去など、内容は盛りだくさんだが表現は特に話題にならないことが多い。そういう意味で新鮮かもしれない。
しばらく忘れていたが、雑木林のことで何か書こうと思っていたら思い出した。こんど機会があったら読み直してみようか。あの頃とは僕の気持ちもずいぶん変化したから、感じることも違うかもしれない。