靄の向こうの山

昨日の雨のせいだろうか、朝は靄(もや)が甲府盆地を包んでいた。愛宕山から南を見ると、靄の底に甲府の街が灰色に拡がり、その向こうに節刀ヶ岳と鬼ヶ岳の頂上が見えていた。富士山が見えていればまるで富士山の家来のように見える山なのだが、富士山が隠され他の山も見えず、という状況では堂々とした高山に見える。
尖った形が特長の節刀ヶ岳は標高1,736m、猫の耳のような二つのピークが特徴の鬼ヶ岳は1,738mと、どちらの山もほぼ同じ高さだ。富士山とは2,000mもの高さの違いがある。富士山は高い。
僕は数年前に鬼が岳に登ったことがあるが、富士山を見るには良い場所だ。しかも陽気の良い日曜日なのに他には誰も登山者がいない静かな山だった。上の娘が確か小学校の4年生だったと思う。ハイキングに行こうと連れて行った。10月のボカボカ陽気の中、車で芦川側から舗装路の最後まで行き、そこから登山道に入った。暗い杉の林の中を登っていった。あまり使われていない道のようで、ところどころ踏み跡が判らない場所もあった。稜線に近づくと斜面が急になり、道はその斜面をトラバースしてつけられており、ギザギザに登っていった。困ったのはその道がひどく荒れていること。足場が決まらずにいるとザーと下へ滑ってしまうし、小さな流れにつけられていた木製の橋は片っ端から壊れていた。娘も歩くのがイヤになってきていて「もー帰ろうよ〜」などとぐずぐずしていた。なんとかなだめすかしながら登り、やがて鍵掛峠に着いた。幅の狭い稜線だった。そこからしばらく歩いて鬼が岳に着いた。ここで昼食。娘はすっかり元気になって、大きな岩に登ったりして楽しそうだった。この後、節刀ヶ岳へ行ってから帰るつもりだったが、お昼を食べている間にみるみる曇ってしまった。すぐそこも見えないほど濃い霧だった。これでは節刀ヶ岳へ行くのには不安だし、眺望も望めない。朝の天気予報では天気はやや下り坂だといっていた。天気に合わせて我々も下ることにした。帰り道は娘がすっかり元気で、ずっと下の方から大声で「とうさん早くぅ」と言っている。道が荒れているから危ないなと思いながらも、こっちは普段からの運動不足のせいで膝が痛い。追いつくことも出来ず「おーい、そこで待ってろ」と怒鳴るのがせいぜいだった。娘は、帰りの車の中では僕より先を歩いたことが自慢で、勝ち負けを言ってキャッキャと喜んでいたが、やがて寝てしまった。