うな重と鯉こく

土日に休みを合わせて家族で旅行に出かける予定があったのだが、残念ながら次女の予定が合わなくなったために中止になった。それでは何となく気が収まらないところもあったので、子供たちには悪いけれど、妻と一緒に諏訪へ鰻を食べに出かけた。
うな重を出す店はそれこそそこら中にあるが、鯉こくを出す店は珍しい。今日もそうとは知らずに行った店だったが、品書きに書かれていた文字を見て思わず注文してしまった。
僕が育った土地は千葉で、家族が年に何度か成田山に連れて行ってくれた。駅から寺へと続く長い参道にずらっと並んだお店で食事をするのが楽しみの一つだった。特にお爺ちゃんと行くときにはほぼ決まって『「うな重」と「鯉こく」』を食べた。店も幾つもある中でいつも決まった店であった。子ども扱いされないのがよかった。参道に鰻を店頭で割いているような店があれば夢中でそれに見入っていた。親たちが羊羹を買っているときの退屈しのぎに最適だった。生き物が刃物を入れられのた打ち回っているのだが、可哀そうという気持ちは湧かず、食べ物にしか見えなかった。鯉こくは骨が大小たくさんあって食べ辛いのだが、元々魚好きに育った僕にとっては枝豆を鞘から抜く作業と大した違いはない程度のものだった。この成田山での素敵な食事が影響し、僕が子供の頃に大好物を聞かれると、カレーライス、ハンバーグ、スパゲティなどが子供の大好物の定番だった時代に、「うな重と鯉こく」と答える小憎らしい子供だった。その大好物は今に至るまで変わっていない。そして今日、美味しい大好物にありつけた。鯉こくは十年を超える久しぶりだった。家族旅行に出かけていればそれなりに楽しかっただろうが、食事は旅館の在り来りな夕食とファミレスあたりの昼食であっただろうから、そう考えると旅行がキャンセルになって良かったとも思える。